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「これがいい」ではなく「これでいい」—温故創新の森 NOVARE

「これがいい」ではなく「これでいい」—温故創新の森 NOVARE

INSIGHT #008

建築の既成概念をいったん外してみるところから

NOVAREという施設を設計したとき、僕はまず「建設会社が建てるからこうあるべきだ」という考えを全部脇に置くところから始めました。 建物って、どうしても“普通はこうする”“一般的にはこうだ”っていう前提がありますよね。でも、ここはイノベーション施設なんです。つまり、新しいことを試す場所なんだから、既成概念の方を疑った方がいいんじゃないかと。 「これがいい」ではなく「これでいい」。本質さえ満たしていれば、従来使わなかった素材でも問題ない。そんな考え方で、ひとつひとつ手で探るように設計を進めていきました。

PCファンやLANケーブルを建築に取り込むという発想

空調や照明も同じように考えました。たとえば建物の空調って普通は専用の機器を使うものですが、ここではPCファンを使っています。一般的な空調装置は一つ何十万円もするのに、PCファンは千円くらいです。数をたくさん使えるからたくさん吹き出し口があって、センサーが人の位置情報と好みを検知して、その人のためにファンが動く・・そんな仕組みになっています。

照明も、従来の照明制御システムに乗せると結局その業界の決めた枠に収まってしまうので、LANケーブルで電力も情報も流す仕組みにしました。POE照明って言うんですけど天井にLANケーブルが這わせてあって、パソコンに何かデバイスを挿す感覚で、天井に照明を挿しています。

   

床の木だってそうです。本物の木は伸びたり縮んだり軋んだりします。でも、ここで大事なのは、実際の素材に触れたときの感覚なんですよね。建設の未来を考える場所なら、そういう生きた素材の表情をそのまま受け止めたい。だからあえて無垢材を使っています。

これがかっこいいかはどうでもよくて、それはそれでデザインになっちゃう。なんでもデザインになるんですよ。 発想を変えれば、「これでいい」それで十分ですよね。



   

空間の連続性を壊さない手すりをどうつくるか

この建物には吹き抜けや曲線の階段が多くて、空間の“抜け”をどう守るかが課題でした。手すりって意外と存在感が大きくて、選び方によって空間の雰囲気が全然違ってしまうんです。 ガラスという選択肢もあったのですが、空調との兼ね合いや、視線の抜けをもっと軽やかにしたいという思いから、別の素材を探すことになりました。 そんなとき、某大学の廊下で見たネット手すりの記憶がふっと出てきて、「こういう感じの軽さが合うんじゃないか」と思ったんですね。そしていくつか検討した中で、最終的にウェブネットに行き着きました。



ウェブネットがしっくりきた

ウェブネットを選んだ決め手のひとつは、やっぱり“軽やかさ”です。編み込みの金網のように厚みが出るものだと、横から見たときに透け感がなくなって重たく見えるのですが、ウェブネットはワイヤが重ならない構造で、とてもすっきり見える。Rのついた階段でもきれいに沿ってくれるし、思った以上に美しかった。

安全性の面でも、エキスパンドメタルのように鋭利なところがなくて安心できます。これは子どもが触っても怖くないですし、見た感じも柔らかいんですよね。

手すりの高さは1300mmと、一般より少し高めにしていますが、ネットの透け感のおかげで圧迫感がなくて、逆に安心感が出る。ステンレスの手すりが視線の“止まり”として機能して、いいバランスになっていると思います。




外部階段の緑化にも相性が良かった

ウェブネットは外部の壁面緑化にも使っています。もともとは細いワイヤロープが張ってあったのですが、どうしても“線”で受ける構造になるので、植物が登りにくいんですよね。そこで「面で支えられるものにしよう」と思い、同じウェブネットを使ってみたら、これが想像以上にうまく機能してくれました。

階段のフレームに合わせてワイヤの枠を組み、その中に一枚でネットを張るという納まりにしたのですが、植物もよく絡むし、階段のラインも損なわない。結果としてとても綺麗に仕上がったと思っています。



   

建設は目的じゃなく手段

僕がNOVAREを創るうえでいちばん大切にしたのは、「建設は建物を完成させることが目的じゃなくて、社会のニーズに応えるための手段だ」という視点です。

ここは清水建設の技術を並べて見せるショールームではありません。未来に向けてまだ完成していなくても、まずやってみるための場所なんです。だから新しい素材や仕組みを試すことに意味があるし、その姿勢自体が建設業全体のレベルアップにつながると考えています。

ウェブネットを採用したのも、空間の透明感を守りながら、安全性や柔らかさを実現できる素材として「これでいい」と自然に思えたからです。新しい建築の姿を模索するなかで、ネットという軽やかな存在はとても相性が良かった。

NOVAREはこれからも、国内外の技術を柔軟に取り入れながら進化していく場所になると思います。“建設の常識”にとらわれない姿勢こそが未来をつくる。ウェブネットもその中のひとつの答えであり、この施設が持つ思想を象徴する素材になったと感じています。





お話を伺った方

清水建設株式会社
設計本部プロポーザル・ソリューション推進室副室長
牧住 敏幸

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